普通の でもそうであっては困る
2024.10.16 Journal by9月に物撮りの仕事で、有名なアーティストの撮影依頼が入った。そしてその方が丁度ヴィンテージ のロレックスを探しているとのことで、「せっかく買うなら間違いない人から間違いないものを買いたい」と言われてしまい、胸に手を当ててちょっと色んなことを考えてから、こういうのも縁というかタイミングというか、むしろ腕の見せ所というか。自分が間違ってない人間かどうかは置いといて、引き受けちゃいました。
ターゲットはRef.5513。所謂「ザ・サブマリーナ」。本当なら、というかいつも通りなら、ミラーなのかマットなのか、はたまた縁アリもいける口なのか。そしてオリジナリティとコンディションをどの程度まで許容できるのか。といった感じで擦り合わせが不可欠なわけですが、ざっくりと予算を伝えられただけで「というわけで任せます」と。
とりあえずミラーの選択肢は消えたのでホッと一安心。で、なんとなく国内の在庫状況を見てみるわけですが、まあかなりの数が出回っていたんですね。たしかに今はスポーツモデルのバリューは10年前に比べ落ち着いているので、特に生産数の多いシリーズは選びたい放題になっている印象があります。でも、私個人的には、このようなドストレートな王道だからこそ盲点を突きたいわけです。というか、普通じゃだめなんじゃないでしょうか、だってアーティストだから。
というわけで、ターゲットは「pre-comex」に決めました。どうでしょう、間違ってないですよね?1976-1978年頃まで作られたスターン社製の珍しいダイヤルがセットされる、通好みの一手。
丁度アメリカでフリーの個体があって、写真を何枚も用意してもらい粗を探す(これをやってる時の自分は好きになれない)。
直近のヒストリーを聞いたら2017年にカリフォルニアの老舗時計店HQ Miltonが販売した個体であることがわかった。具体的な安心材料があると助かる。
すぐに日本に送ってもらった。
ベゼルは褪色が進みグレーカラーが枯れた雰囲気に。でもこれ以上薄くなったら眠たい印象になりますので、もしそうなる日が来たら新しくベゼルを買う方向で。ケースは分かっていたけどやっぱり傷だらけ。でも脚の痩せ感はなくて、これは磨けばバキるといったポテンシャル。ブレスはやや伸び感があるにはあるが、これもその気になったら新調してしまえばいい。で、肝心のダイヤルは完璧に綺麗そのもの。これはアガる。とにかくダイヤルが生命線ですから、マットの質感、夜光のダメージやレタッチがあるとそれはコレクターズチョイスとは言いづらくなるのです(個人的には味のあるダイヤルも好きですよ)。
オーバーホールを済ませ、スタジオまで納品に。
年季を感じさせる紙製の箱を開け、「こんな感じでいかがでしょう」。
気に入ってもらえた。ありがたい、よかった。
ヴィンテージロレックスに精通している方ではないけれど、一応プレ・コメックスがどういうものなのか、僅か数年だけ作られた背景、蘊蓄を一応の一応だけ伝えさせてもらった。多分あんまり聞いてなかった。
毎度、披露するこの瞬間だけは、この紙の箱の蓋が妙に重たく感じる。それは責任の重さだと思っている。
それを感じているうちだけ、できる仕事だと思う。
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