時計探訪記 〜ロンドン 中編〜

2024.11.11 Journal by Wolf and Wolff

時計探しは一旦休憩してこの日はJOHN LOBBに。

案外知られていませんが、JOHN LOBBは現在二つありまして、一つは皆の知るHERMES傘下のJOHN LOBB。そしてもう一つは1860年代創業当時から変わらない「Only Bespoke」のみ展開するJOHN LOBB。今回お伺いしたのは後者。

過去に製作された、どこかの誰かのオーダー品の革靴がまるで博物館のような古い展示ケースの中にずらりと並ぶ。かつては僕もこのようなホンモノだけが持つ美しいフォルムや革質、そして何より歴史に憧れ、それこそここで働く日本人アルティザンに頼みこみ編み上げブーツを作ってもらったことがある。さらには伝説の名靴職人、JASON AMESBURY氏のご自宅まで出向きローファーをオーダーメイドしたこともある。最終的には靴専門誌LASTに愛好家として取材をいただいたりもした。何が言いたいかというと、僕はこの世界にちょっとだけ詳しい。
が、今はもう何年もビルケンシュトックしか履いていない。「あの頃はお世話になりました」、これ以外の言葉が浮かばない。でもたまにこういうヒストリカルな現場の空気に触れると胸が疼くのはたしかである。

さて、立ち寄った理由はこちらでございます。昨年から温めていた「JOHN LOBB for Wolf&Wolff」による、watch caseのピックアップ。

Bespoke shoesと同じ革を使用し、黄金の刻印が押された時計ケース(5本収納。内側はスエード)。なんと、時計ケースの製作は今回が初とのこと。だから昨年12月、自分がその日巻いていた1960年代のデイトジャストを計測し、ポケットの大きさ、ストラップカバーの幅など散々話し合った。時計のことを全く分かっていない、しかし世界最高峰の技術者が時折首を傾げ、ラフスケッチを描いていた。それが楽しかった。
満を辞して完成です。

数に限りがございますが、購入をご希望の方はメールかDMでご連絡ください。

さて、Wolf&Wolffはまもなく押上に移転オープンします。これを綴っている今この瞬間も、築100年の小さな小さな平屋の補修工事が行われています。
おそらく、こんなに予算の限られた時計店は他に無いと思う。でも僕がやりたいことは沢山の時計を取り揃えて販売することではなくて、このラグジュアリーウォッチムーヴメントによりすっかり忘れ去られた価値観であります、一本一本のこの壮大で静かなる本来の物語を、元の美術品棚に戻す作業がしたいのです。そのミッションに賛同してくれたのが今回はたまたま奇跡的にもJOHN LOBBでした。

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