時計探訪記 ~マイアミ編~
2026.04.04 Journal by
今僕はフロリダ州マイアミにいる。
気温30度のティファニーブルーの空の下で風に揺れるパームツリー。その奥に佇む巨大なコンベンションセンター内では、アメリカ最大規模のヴィンテージの祭典、Miami Antipue Show 2026が現在開催されている。
ジュエリー、時計、テキスタイル、インテリア、彫刻、陶磁器、などなどなんでもありのショーなわけですが、単に古いだけではなく、それらは歴としたコレクターズピースとして評価されるモノだけが対象であり、ベンダーもその道のスペシャリストであることがブースを持てる条件。要は、けっこうレベルが高いショーなのであります。

写真だと伝わりませんが、こことんでもなく広いです。まともに見ていたらとてもじゃないが1日では足りません。何より非常に面倒なのは、ジャンルがセクション毎に分けられていないこと。仕方なく一軒一軒見て回ることに。
それにしても想像以上のヴィンテージウォッチの数々。

昨年フランスで買い付けたフレンチケースや、現在脚光を浴びているバブルバックもこの日に合わせて多く揃えてきてますね(それも珍しいダイヤルばかり)。そしてめちゃくちゃな数のスポーツモデル。もう最初の15分くらいで1年分は見た気がする。
ブースの壁に貼られているカードで出展者を確認すると、やはり有名なお店やディーラーが多いですね。それも世界中の。

聞き馴染みのある声がすると思って振り返ると、昨年ジャーナルでも紹介したWanna buy a watchのオーナーが山盛りのコレクションを前にカメラに向かって饒舌に語っていた。隙を見計らって「バブルバック用のライスブレスレット探してるんだけど」と聞いたら即答で「無い!」。とのこと。

すぐ近くではオークションハウス”Monaco Legend Auction”が本の中でしか見たことないような希少な時計を販売していました。これらはヴィンテージロレックスの頂点であることは間違いありませんが、今のトレンドかどうかで測るとちょっと気分からは外れるかもしれません。が、やはり存在感は別格です。
さらにその横では次回のオークション(4月末)のハイライトロットのプレビューが開催されていましたね。ここでも伝説的なピースに触れられるまたとない体験でした。
とにかく、ここは夢のようだ。しかし値段もまた夢のようである。大きなイベントだからとか、今また円が弱くなり僕らからすると高く感じるとかそういうことではなく、絶対、それも急速度で、確実に上がった。生産数が少なくコンディションの良い個体は全て上がってしまったようだ。

それでもお客さんたちは何も問題なさそうに、まるでブティックで旬なブランドのアイテムを選ぶような感覚で買い物をしているのが恐ろしい。しかも一本じゃなかったりする。ここで出展、アリかもしれない…。思わず鼻の下が伸びる。
それにしても意外というか、やはりそうなるかというか、女性のお客さん、なんだかとても増えている気がする。選んでいるものも必ずしもCartierなど、これまでwomen’sとされてきたスタイルだけではなく、以前より幅が広がってますね。ある意味ヴィンテージウォッチが着実にジュエリー化している証でしょう。

これは欲しかったが値段がギリギリ合わず断念したSpeed King。このダイヤルは珍しいし、何よりクールだ。最近このあたりの、要はバブル以外の良い顔をした30’s~40’sの個体は探すようにしていますがどうやら事すでに遅し。

僕の時計を試着するアメリカのディーラー。この人は詳しいです。そしてしつこい。このFlying Officerを買いたがっていて、オファーを断っても、着けていたMovadoのクロノグラフを渡してきて強引にトレードをさせられそうになった。ただ今思えばそのMovadoも相当なものだったから正直それはそれで悪くなかったのかもしれない、。

彼のブースでは時計と一緒にこんなものもディスプレイされていた。もう彼は友達だ。

そのブースで仲良くなったお客さん。名前はたしかBrianさん。このイベントのためにミネソタから来たらしい。これは50’sの5504でしょうか。ブレスレットはおそらくWAB社製。話から察するに彼のコレクションはどこか日本人的でそしてストイックだ。エクスプローラーだけで4本も集めたのだとか。でもIGを見せてもらったらしっかりカリフォルニアダイヤルのゼログラフやゴールドのキリーも持っていた。来週日本に行くとのことでディナーの約束をした。近しい志を持ったコレクターと交流するのもこういった場所での楽しみ方ですね。


絶対に買えない。しかしどうしたら手に入れれるか頭を捻る。が、やっぱり買えない時計たち。このような癖が強いレジェンダリーな時計が僕は大好きだ。

この場所では時計以外も勿論スペシャルな美術品で溢れている。これはオリジナルのTiffanyのランプ。先日クリスティーズでもTiffanyランプに特化したオークションが開催されたりと、個人的にも今注目しているインテリアです。


こちらは100年前とかもっと以前?の、とにかく古いジュエリーコレクション。このフィーリング、ファッション的にはまさに今でしょう。自分が女性だったら間違いなく手に入れたい旬な逸品。

こちらは素材がゴールドのヴィンテージチャームのみ蒐集し販売しているユニークなブース。本来は同じくゴールドのチェインに通しネックレスとして身につけるものなのでしょうが、僕は最近ブラックのジャケットにアーティストが作った小さいコサージュを飾っていて、それがとてもお気に入りだから、要は、そういう用途として買ってみることにした。
一つ一つ時間をかけて選んでいると、すぐそこのヴィンテージウォッチのブースに急に人だかりができた。今すぐ見に行きたい。が、僕にとってファッションは時計と同じくらい重要なこと。決まるまでは金縛り状態なのである。結果選び抜いたチャームがこちら。

ハサミ。帰国したら早速ラペルに縫い付けよう。

何度も言うが、ここは本当に夢のような空間だ。ここに集まる全てのものは、モノホンのコレクターたちが”人生をかけて”愛したコレクションで溢れている。SNSのような分かりやすい人、とっつきやすい人など誰もいない。そういうエナジーにも心が癒される。
そんなことよりかなりまずい。まだ何も買えていない。初日が終わり、二日目はちょっと視点を変えてみることにした。当然有名なディーラーのブースに行けば間違いなさそうな時計を簡単に見つけることはできるが当たり前に高額である。だからそれ以外のちょっと地味目な時計ディーラーのブースだけを渡り歩いてみた。それはできれば年配の人がやっていて、IGのアカウントを持っていなくて、もっと言うと怪しくて微妙な時計とごちゃ混ぜになっているようなブースが理想だ。そういう地雷原の中からダイヤを探し、そっと掬うのだ。

何軒目かのテキサスのディーラーのブース。ケースに雑多に並べられたマイナーなアンティークウォッチの数々。干からびたトカゲの死骸のようなストラップをぶら下げた数本のマストタンクだけがそれらとは少し距離を置いて綺麗に並べられている。その付近にエクスプローラーが2本、プラスティックバッグに入れられた状態で置かれていた。そしてそのうちの一つ、これが大当たり。
1966年。シリアルも裏蓋もこの年式で間違いない。傷の多い風防の下を自前のルーペでぐるぐる見渡す。失礼だがここにあるのが信じられないくらい完璧だった。いや、こういうところだから出る最もありがちな例とも言える。
ここからはビジネスの話で、お決まりの難癖をつけ、お互い電卓を弾くフリをするという古より伝わる作法の時間。結果500ドルだけ安く買えた。
インボイスを作ってもらっている間、彼らについて色々聞いたら、やはりフェイスブック時代で止まっていて、このようなショーに頻繁に出展しては手売りしているらしい。熱い。これだけ便利な世だからこそ逆に熱い。連絡先を交換し、こういう時計が手に入ったらすぐに連絡をしてほしいと伝えておいた。

助かった。一本だけだがなんとか最高レベルの個体を、それもEXPLORERで手に入れることができた。
これは早速インスタグラムに掲載したところ、ありがたいことに沢山のご連絡をいただいている。しかしご覧のようにブレスレットが無い。なので希望であればリベットでもジュビリーでも探すことは可能なので必要であればお申し付けを。
しかし個人的に最近、レザーストラップはそれはそれでファッション的にはとても今っぽいかなと思っています。その背景にはやはり世界のトレンド(ジュエリー、インテリア、車、音楽など)がどこかアンティークテイストになっていることでしょうか。僕も殆どのコレクションからブレスレットを外して、特注したアンティーク感の強いペラペラのレザーに変えているのですが、まるで老紳士の時計のようで素敵なんです。
勿論お好きにどうぞな話ではありますが、ブレスレットなどパーツ一つとっても非常に高価になった今だからこそ、工夫一つでここまで化けるじゃないですけど、知識ではなく”センスに頼る”のが今の格好良いを作る近道なように思います。

イベントが18時に終わり、外に出るとマイアミの空はまだまだ青い。帰りのUberの中でインスタグラムを開くと、東京で同時期に開催されていたヴィンテージショーのレポートが流れてきた。有名な古着屋さんや時計屋さんが多くここに出店し、近年コア層とされているインフルエンサーやコメディアンに高額なヴィンテージを案内し、結果が出ているようだった。羨ましい。僕もこういったことを目標にできる性分だったらどれだけラクだったかと気持ちが焦り、スマホを閉じた。
今回もまた一歩、着実に間違った方向へと進んでいっている。
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