時計探訪記 〜ロングモント編〜

2026.07.26 Journal by Wolf and Wolff

僕は今コロラド州ロッキー山脈の麓にある小さな町に来ている。巨大な納屋が列なるこの場所では普段はホースショーに出場する馬たちが飼育されているのだが、この週末、納屋のひとつがウォッチショー会場へと姿を変える。

マイナーすぎて流石にこのショーを知っているバイヤーはほぼいないはず。そして僕もよく分かっていないまま来ている。
地元密着型のこのローカルなイベントに参加するには1ヶ月前までにフォームを作成してFaxかメールで主催者のDaveさんに送らないといけないのだが、僕が知ったのが直前だったため電話をしたら無理矢理ねじ込んでもらえることに。

ここがエントランス。白髪の彼がDaveさん。用紙にサインし、入場料10ドルをくじ引きのような箱に入れ、VISITORのカードを手渡される。窓越しから見える参加者たちは想像通り若くない。彼らは何十年も以前から取り憑かれている筋金入りのファンに違いない。これこれ、こういうのを期待してた。さぁ入場だ。

ここは本当に2026年なのか。タイムスリップしたかのようなこの光景からは、ヴィンテージウォッチがまだアートやファッションとして語られる遥か以前、熱心で偏愛なオタッキーだけが集まっていた時代の空気が感じられる。まるで90年代の時計雑誌の写真の中に入ったような。
一番の違和感は、ROLEXは沢山あるのにスポーツモデルが全くと言っていいほど無いんです。というか一本も見てない気がする。アールデコやバブルバックのスタイルばかりで、クロノグラフも1940年前後の時計が中心だった。すなわちスポーツモデルが持て囃される以前の価値観を保ったまま、数十年という時間だけが流れた世界。皮肉なことに、この世界観は今新たなコレクターにとってむしろクールに映っている。しかしそんなことはこの会場では誰も気にしていないようだった。
そんな大昔の腕時計たちが、掛け時計やポケットウォッチの数々に紛れて並べられていた。

大量の付属品やダイヤル、さらには使い古されたクリスタルまでも。用途に首を傾げるパーツ類も実に豊富だった。

↑は以前からファンのテキサスのディーラー”アールデコウォッチーズ”のブース。遥々テキサスから参加していました。もし数百ドルのバジェットでクールなアンティークを探すなら彼はおすすめです。とてもセンスが良い。

狭い会場、というか広い納屋を何周もしてやっと見つけた、やっと気付けたこのブレスレット(Unknown)。これが今回唯一の戦利品。
全然興味なさそうに聞いて見せてもらい、クラスプを確認すると”750”の表記。おそらく1950s前後のフランス製かスイス製か。シールには40.3。ゴールドの重さ、40.3gということだろう。サイズは17mm。バネ棒が片側にだけ付いてるこの雑な感じ。おっちゃんが変な値段を言わなければ間違いなく最高の仕入れになるだろう。

コンディション、そしてなんと言ってもレングスが残っているもの、要は当時男性が付けていたものがとにかく貴重なんです。こういったブレスレットを例えばバブルバックやフレンチケース、角プッシャーのクロノグラフなどに装着するのが本当の理想だと考えているコレクターは今多い。当時物の入手が困難なため最近ではこのようなスタイルをリプロダクト(実際にゴールドで)する人もいるくらいなんです。

終始興味なさそうなテンションで、でもすぐに買った。そしてすぐに友達に写真を送って自慢した。

先月シンガポールで手に入れた、まだベルトで迷っているMOVADO。これにはサイズが合わないが、装着できた場合はこういう雰囲気になる。小振りで緻密なデザインにはやり過ぎているくらいでも素敵だ。

いくつもの掛け時計が一斉に歌い始める。正午になった。すっかり童心に帰っている愛好家たちの表情を記憶し、会場を後にする。

外の駐車場ではファーマーズマーケットが開催されていた。遠くに横たわるロッキーマウンテンを眺めながらオーガニックレモネードを飲んでみた。
気付けば30代最後の夏。針は、止まらない。

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