Four recent finds
2026.05.19 Journal by最近新しく入荷した時計をダイジェストで。

まずはこちら。ブランドの表記が入らないこの謎のゴールデンウォッチはEska。28mm diameter。その数値を感じさせない秘密はこの立派なラグ脚と少々分厚いシリンダーケースによるもの。
これは所謂「French case」と呼ばれる、1940年代にフランスのジュエラーがRolexを始めとする様々なスイスメイカーのケース(時にダイヤルも)を製作代行し、当時フランス国内でのみ販売していたというもの。一昔前は珍品として扱われていましたが、今は歴としたコレクターズピースとして主に海外コレクターの間では最もHotなジャンルの一つに。
手に入れるきっかけを作ってくれたのは、先月マイアミのAntique showで知り合ったBrianさん。その翌週彼は日本に来ていて、その時見せてくれたのがこちらの時計。


「フレンチケース?」『Yes. From Alex』。
PGケースに同じくPG素材のダイヤル。数字やバーがラフに彫り込まれ、その溝は朱色で着色されている。ケースサイドにはFrench caseお約束のホールマーク。
それにしてもAlexという男の名前を今年色々なところで聞く気がする。尋ねたところIGのアカウントを見せてくれた。あぁ、知ってる。たしかフランスのギャラリーの関係者で、French caseばかりコレクションしている異様にセンスの良い変人だ。
そしてこの時計のケースバックが興味深い。

「UNIVERSAL GENEVE」。その下には「HERMES」。
この不安にしかならない雑なタッチもまたこのジャンルを象徴するディテールではあるのですが、HERMESがどう関係しているのかは正直誰にもわからない。
「HERMESで販売されたんじゃないかって。Alexはそう言っていた」。らしい。
最終的に何を信じるか。自分を信じ切れるか。もうそういう話だとは思う。だが、そんな僕もこのミステリーだらけのFrench caseに今夢中だ。というのもこのジャンルの最も面白いポイントは、例えこの時計がRolexだろうとUniversalだろうと、極端な話メイカー自体はそれほど重要ではないという点にあります。要になるのは、「誰が作ったか」。
ケースバック裏側あるいはダイヤルバックには製作を担ったジュエラーのスタンプが刻まれている。それを1940年代当時のフランスのジュエラー名簿と照らし合わせ、製作者を特定する。その製作者こそがこの時計におけるブランドであると僕は思っているし、それは他のコレクターも同意見のはずだ。この価値観は良い意味でこれまでの時計マニアのそれとはかけ離れたところにあるような気がしていて、だからこそ次世代のコレクターから注目されているようにも思う。
話を戻すと、この時計がきっかけでAlex氏を紹介してもらい、数日後に彼のコレクションの一本を譲ってもらえることになった。


ちなみにストラップもAlex氏が作っていて、その表情は素朴だがなんとも言えない説得力がある。
彼の工房の写真を一枚送ってくれた時、ファッションの仕事をしていた僕にはなんとなく分かった。Alex、彼はおそらくこの道のプロか元プロだ。

時計を買った後ベルトのみ何本かオーダーした。あるブランドと全く同じ値付けだったことから、やっぱりそういうことなのかなと聞いてみたりもしたがアマチュアですと返された。フレンチケース同様にミステリーな人でした。
続いてこちら。

個人的に、というか歴史的に、衝撃的な一本がスイスから到着。
スペックから察するに1920年代後半から1930年くらい?(古すぎてシリアルから年代の特定が不可能)のVICEROY。しかもありえないことに、「Rolesium」という一説によるとプラチナとステンレスを混ぜた特殊な素材がケースに使われているんです。それはプラチナのような硬さを感じる質感、艶感。この素材、どうやら錆びないらしい。
そもそもRolesiumという名称は1990年代に登場した新素材であったと記憶していましたが、調べると実は1932年5月にハンス・ウィルスドルフがこの名称で既に特許を取得しているんですね。それを当時試験的になのか、ちょっとだけ作った、ということでしょう。

裏蓋を見ると、ステンレスの工場ではなくゴールドやプラチナのケースを担当していたファクトリーの刻印があるのがわかります。こんなものが、こんな時計がかつてはあったんですね。

そしてさらにこのダイアル。一般的にグロスダイヤルというものは、レターからミニッツトラックから、デザイン全てが抜き字のような手法で地金出しされています。それがバブルバックの時代に遡るとゴールドのプリントとなり、夜光が入る場合はラジウム塗料が盛られていたりするわけですが、この時計はそれよりも前。グロスダイヤルにホワイトプリント。そして本来夜光が乗るインデックスに関してもホワイトのペイントで塗りつぶし。
そういうものが約100年前に存在していたと知ってはいましたが、初めてです、見たのは。簡単に言えば極めて初期のミラーダイヤルということでしょう。
そんな珍しい個体がこれまた極めてミントなコンディションという、ちょっとこれは恐ろしい個体です。
さらに続きます。

1940年代のTudor。本当かどうか知る由もないが、NOS(ニューオールドストック)。らしい。
これは先月ハリウッドにある老舗時計店「Wanna buy a watch」に行き、いつものように店頭に出していないスペシャルを伺っていた時に奥から出てきた時計。デザインだけで言えばこんなにも美しいヴィンテージは中々ありません。ただしサイズはレディースなんです。女性用として当時売られていた時計で間違いないのですが、ここまでメンズ的な、というか今コレクターがヴィンテージに求めるデザインのポイントを見事に突いているとなると話が変わってきますよね。わかりやすく言えばトレンドのど真ん中、ということ。


ツルツルの裏蓋。PGコンビのブレスレットも当時物。
「ずっと昔から自分がキープしてきた時計です。使用形跡が見当たらない。NOSのはずだ」とオーナーのKenさんは手に持つ時計から顔を上げ、鼻先まで落ちた老眼鏡の上から僕を見た。
ただこのサイズを見ていて、僕はOK、そしてファッションの文脈に明るい人もOK。ただ現実問題果たして通るのか(買い手がつくのか)? 時計とKenさんと睨めっこの末やめることにした。NOSという情報も当然鵜呑みにはできないし。
しかし帰国後、カメラロールを見ていたらやっぱり欲しくなった。で、結局買った。

改めて、やはりこれはクールだ。ブレスレットも付属しますがスエードが気になってます、この時計には。ベルトについてはAlexに相談しよう。
そして最後の一本はこちら。

RolexのChronographです。しかもこれは相当古い。1930年代。
この時代のクロノグラフは黎明期であったことから様々なリファレンス、ケースサイズ、ダイヤルデザインが存在、というか混在していました。同時代に並行して作られていたバブルバックもそうですが、本当に格好良いと思えるのは一部であって、その他多くはやはりどこか僕にはシュール過ぎるんですね。その中でもこの3525というリファレンスのクロノグラフは1950年代以降の所謂プレ・デイトナにどこか通ずるフォルムがあるというか、数ある1930-1940sクロノの中では一際モダンなんです。そういうこともあってか3525は昔からずっと高い。そしてまともな個体を手に入れるチャンスがあるとすればオークションハウス以外基本的にはない。そんなレアピースがシンガポールに。何百もの歴史的ピースを蒐集するヴィンテージウォッチミュージアムの主催者、Ali Neal氏によるコレクションからの一本。

YGとSSのコンビですが、見ての通りYGが赤く酸化し、さらに部分的に黒ずんでもいる大迫力のケース。
ダイヤルのレイアウトも、3525でも初期の個体というのもあってROLEX OYSTERはアーチ状に。表面のコーティングは程よく焼け、よくあるプリントの掠れや赤と青のスケールの色抜けが少ない美しいコンディション。とにかく、このような良好な保存状態を維持しながらも深味ある熟成を重ねた個体は本当に芸術的だと思う。
以上、長くなりましたが新入荷をダイジェストでお送りしました。
今回の4本は当然誰にでも理解をしてもらえる時計ではありませんし、有名モデルのような所有欲を派手に掻き立てられるものでもありません。ですが、現在大勢からの憧れの対象になるようなドリームウォッチに勝る魅力があるとすれば、多分それは品みたいなものだと思っている。これは個人的な思想なのであれですが、そういう世界が必ず存在すると僕は信じてやっています。
お問い合わせはDMもしくはinfo@wolfandwolff.comまで。
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